この3部作では、控えめで落ち着いたじっくりマイスタータイプの子どもが、ゆっくりと力を育てていく姿を綴っています 丁寧に考える時間や迷いの瞬間、自信に変わる日を、そっと一緒に見つめていただけたら嬉しいです
- ▶ 第1話:静かに始まる学び|控えめな彼が見せてくれた小さな強さ
- ▶ 第2話:ゆっくりの中の葛藤|間違えたくない気持ちと向き合う姿
- ▶ 第3話:🌿じっくりが花開く瞬間|静かな積み重ねが自信に変わる日
この記事の内容は、わたし自身の学びや体験をもとにしたものです。
「子育てのヒントのひとつ」として、気軽に受けとめてもらえたら嬉しいです。
教室の中には、静かに深く考えながら進む子がいます。
慎重で、丁寧で、間違えたくない気持ちを胸に抱えながら、それでも前へ進もうとする子。
今日はそんな“じっくりマイスタータイプ”の彼が見せてくれた、静かな葛藤と小さな勇気のお話です。

- ▶ 第1話:静かに始まる学び|控えめな彼の、小さな強さ
- ▶ 第2話:ゆっくりの中の葛藤|間違えたくない気持ちと、静かな勇気
- ▶ 第3話:じっくりが花開く瞬間|静かな積み重ねが自信に変わる日
この記事の内容は、わたし自身の学びや体験をもとにしたものです。
「子育てのヒントのひとつ」として、気軽に受けとめてもらえたら嬉しいです。
その日の教室には、いつもより静かな空気が流れていました。
プリントを机の上に広げた彼は、最初の問題をゆっくり眺め、
鉛筆をそっと動かして書き始めました。
一画一画を慎重に置いていくような筆跡。
彼の学びは、いつも静かな川の流れのように穏やかです。
けれど、ページの中央あたりに差し掛かったとき、
その流れはふっと止まりました。
◆ 迷いの影が落ちる瞬間
彼の手が、鉛筆の上でぴたりと止まりました。
視線はゆっくり問題の文を読み返して、また戻る。
小さく息を吸い直して、もう一度考えて──また止まる。
「間違えたくない」という気持ちが、
彼の横顔からもそっと伝わってくるようでした。
誰かに助けを求めるでもなく、
「先生」と声をかけるでもなく、
ただ静かに考え続ける姿。
ページの上で揺れる影のような迷いが、
少しずつ伝わってきました。
消しゴムをそっと動かす音が、小さく響きます。
それは悔しさや焦りではなく、
“自分の力で、もう一度やりたい”
そんな気持ちが生んだ静かな音でした。
◆ 小さな決断の瞬間
しばらくして、彼は鉛筆を握り直しました。
迷いの影を振りほどくように、もう一度ゆっくり文字を書き始めます。
筆跡は最初より少し揺れていて、
その揺れが彼の心のまっすぐさを物語っているようでした。
「できるかな…」
そんな声が聞こえてきそうなほどの慎重さ。
でも、その慎重さの中に確かにあったのは、
“挑戦してみる”という静かな決断でした。
まわりの子どもたちは次々とプリントを進め、
ときどき笑い声が起きる教室で、
彼だけは自分の時間を崩さずに進んでいました。
その姿は、静かな強い意志を感じさせました。
◆ 採点を待つ間
すべての問題を埋め、プリントを提出する彼の歩き方は、
いつもより少しゆっくりに見えました。
それでも、迷いを越えた子の足取りでした。
丸つけが終わって返されたプリントを手にして、
彼は小さく息をのみ、そっとプリントを開きました。
そこには、大きなまる。
そして一か所、小さな三角。
ほんの少し唇を結んだあと、
消しゴムでその三角をなぞるように指先が動きました。
“次はきっと”
そんな言葉が聞こえてくるような仕草でした。
◆ 迷うことは弱さではない
その日の帰り際、
彼はプリントをカバンに入れながら、
ちらりと私の顔を見ました。
その目は、悔しさと誇らしさが混ざったような、
なんともやさしい光を宿していました。
「難しかったね」と声をかけると、
彼は小さくうなずいて、ほんの少しだけ笑いました。
あの小さなうなずきの中には、
どれだけの葛藤と、どれだけの勇気が詰まっていたのでしょう。
迷うことは、弱さではありません。
彼のゆっくりは、
“あきらめずに向き合ってきた時間”そのものなのだと、
その日あらためて感じさせられました。
▶ 第1話はこちら
ゆっくりの中の葛藤|間違えたくない気持ちと向き合う姿
▶ 第3話はこちら
じっくりが花開く瞬間|静かな積み重ねが自信に変わる日はこちら



コメント